今回のテーマは『リン酸』です。
アクアリウムをやっていると、様々な場面で『リン酸』という言葉が出てきます。リン酸にはそれだけ多くの働きがあるということです。ここでは、水槽内にリン酸が存在するときのメリット・デメリットを解説します。
リン酸のメリット
植物の肥料となる
リン酸の用途で最も有名なのは、植物の肥料です。
リン酸は植物が成長する中で最も多く必要とする成分の一つです。植物が必要とする成分は他にも多数ありますが、『窒素』、『リン酸』、『カリウム』の三要素は特に必要量が多く、園芸の肥料では、含有量の表記が義務付けられています。
各成分それぞれに働きがあるのですが、リン酸は主に開花や結実に深く関わります。
ですので、園芸用肥料を見てみると、芝生や観葉植物の肥料に比べ、花や果実の肥料にはリン酸が多く含まれています。
例として、園芸用肥料で有名なハイポネックスで窒素ーリン酸ーカリウムの含有量を比較してみると、芝生の肥料が5-2-4に対し、バラの肥料では4-6-6となっています。
このように、リン酸は植物、特に花や実をつける植物にとって非常に重要だということが分かっていただけたと思います。
pHの変動を抑える
水槽内のリン酸が増えると、pHが変化しにくくなります。過去に記事を書いてますので、良ければそちらもご覧ください。
[mathjax]今回は、pHについて書きたいと思います。pHという単語はほとんどの方が知っていると思いますが、その数字が何を示しているのか知っていますか?pHは酸性やアルカリ性の強さを表[…]
リン酸がpHを安定させるというのはアクアリウム以外の世界でも有名な話で、例えば、化学の実験などで使われるpHメーターでは、中性域の校正にリン酸緩衝液が使われます。
アクアリウムで使われるpH調整剤も、リン酸緩衝液が使われているのではないかと思います。
ちなみにアクアリウムでpH調整剤をどのようなときに使うかというと、例えばベアタンクで大型魚を飼う場合などで、魚の排泄物によって急激にpHが下がってしまうとき、それを防ぐために使用することがあります。
私は以前、淡水エイやアロワナ、ガーなどを飼育していたのですが、水槽立ち上げ直後はいくら水換えしても数時間の間にpHが5くらいまで下がってしまうということを体験しています。
当時は濾材にサンゴ砂を混ぜることで解決しましたが、サンゴ砂を入れすぎるとpHが必要以上に上がってしまうリスクもあるため、pH調整剤を使用するという選択肢もあります。
リン酸のデメリット
コケが発生する
水槽内のリン酸が増えることの最大のデメリットは、コケが発生しやすくなるということです。特に、黒髭ゴケやサンゴ状ゴケというアクアリウムではとても厄介とされる種類のコケが発生します。
この原因の一つは、リン酸が水草だけではなくコケの養分にもなってしまうということです。
「リン酸が植物の肥料になるのであれば、水草をたくさん入れておけば、水草がリン酸を養分として吸収してくれるのでは?」と思うかもしれませんが、大抵の場合そううまくはいきません。
『リービッヒの最小律』という言葉をご存じでしょうか?
簡単に説明すると、植物が必要な養分を吸収するとき、何か一つでも不足している成分があると、他の成分が十分にあっても養分として吸収されなくなるということです。
先に説明した肥料の3要素のうち、窒素とリン酸は魚の餌に多く含まれているため、何もせずとも十分供給されますが、カリウムは添加してあげないと不足してしまいます。
そのため、水槽中に窒素やリン酸がたくさんあったとしても、水草はそれらを吸収することが出来ず、窒素やリン酸がどんどん蓄積されていきます。
その一方で、カリウムがほとんどなくてもリン酸を吸収して成長できるものがいます。
そう、『黒髭ゴケ』です。
黒髭ゴケは、水槽立ち上げ初期にはあまり発生せず、長期間経過して比較的安定している水槽で発生します。これは、長期間かけて徐々にリン酸が蓄積された結果、黒髭ゴケが好む環境になってしまうことが原因と言えます。
pHが高止まりする
リン酸があるとpHが変化しにくくなりますが、これはリン酸が酸としてもアルカリとしても働くためです。
[mathjax]今回は、pHについて書きたいと思います。pHという単語はほとんどの方が知っていると思いますが、その数字が何を示しているのか知っていますか?pHは酸性やアルカリ性の強さを表[…]
つまりリン酸が蓄積した水槽では、酸を多少加えてもpHは下がらず、同様にアルカリを加えてもpHが上がりません。しかし、あくまで見かけ上pHが変化していないだけであって、内部ではリン酸が変化しています。
地域差はありますが、日本の水道水はpHが7より若干高い場合が多いようです。私が住む地域でも7以上あります。
phが7を超える水道水で水換えをするということは、水換えのたびに水槽にアルカリを追加しているようなものです。
アルカリが添加されると、リン酸はそれを中和するように水素イオンを放出しますが、水素イオンを放出したリン酸は、放出前の状態より水素イオンを受け取りやすくなっています。
このような状態ができると、次に水槽に酸が加えられても、リン酸が水素イオンと結合するため、飼育水のpHは下がりません。
多くの熱帯魚や水草は、弱酸性~中性を好むとされていますが、pHが高めの水道水で水換えを続けていると、飼育水のpHは弱アルカリ性で安定してしまうのです。
水草が光合成できなくなる
これは直接リン酸が原因というわけではありませんが、上で書いたように飼育水が弱アルカリ性で安定してしまうと、水草の光合成が不活発になります。
これは、pHによって二酸化炭素の形が変化してしまうためです。
リン酸はpHによって酸にもアルカリにもなると説明しましたが、炭酸(二酸化炭素が水に溶けたもの)も同じように酸にもアルカリにもなります。
温泉のサイトで非常に分かりやすく説明したものがありました。
http://www.asahi-net.or.jp/~ue3t-cb/bbs/special/sience_of_hotspring/sience_of_hotspring_5-5-1.htm
これを見てもらうと分かる通り、水に溶けた二酸化炭素はpH=7.5以上の領域ではほとんどが炭酸水素イオンもしくは炭酸イオンの形で存在しています。水素イオンを1つ、もしくは2つ放出した形です。この形だと、多くの水草は二酸化炭素を光合成に利用することが出来ません。
逆に、pHが6.5以下になると炭酸の状態で存在する比率が半分以上になってきます。実際は炭酸は不安定なので、炭酸の状態ではなく二酸化炭素分子の状態で存在します。この状態であれば、水草は二酸化炭素を利用できるようになり、光合成を活発に行います。
まとめ
- ベアタンクや魚メインで飼育するのであれば、リン酸はpHを安定させる働きがあるため有用
- 水草水槽ではコケの原因や光合成の妨げになる可能性がある
リン酸の発生源
アクアリウムにおけるリン酸の発生源は、『餌』、『肥料』、『水質調整剤』です。
肥料と水質調整剤については、リン酸を含まないものを使うという選択肢がありますが、餌については魚を入れている限り、与えないわけにはいきません。
与える餌の量を最小限にすることは、水草水槽を管理する上で最も重要な要素になります。餌の量については、以下の記事をご覧ください。
アクアリウムで水草水槽を作ったり熱帯魚を飼育する中で、最も多い失敗が『餌』だと思います。場合によっては、餌が原因だと分かっていない失敗もあるかもしれません。また、水草水槽を管理する中で、餌の量は最も重要なポイントの1つで[…]
水草水槽にはリン酸除去剤がお勧め!
我が家には立ち上げから3年経過して黒髭ゴケまみれになった状態から、リセットや掃除なしで立て直した水槽がありますが、この水槽では、リン酸の蓄積への対処としてエーハイムの『リン酸除去剤』を使用しています。
これを使い始めてからコケが激減したのを実感しています。レビューであまり効果がないと書かれていたりしますが、それはリン酸以外にコケの原因があるためだと思います。私の水槽では、効果抜群でした! 6袋入りで1年は楽にもちます。コスパも最高です。
ただ、これを入れるだけですべてが解決するわけではなく、上の記事で書いたようなpHの問題などにも手を打つ必要があります。
詳しくは、以下の記事をご覧ください。
前回の記事では、コケが大量発生した状態からリセットなしで水槽を立て直したことを紹介しました。[sitecard subtitle=関連記事 url= https://nature-at-home.com/2020/03/31/a[…]