水草が弱酸性の軟水を好む理由を科学的に解説

水草水槽では「弱酸性の軟水が良い」とよく言われます。しかし、なぜ弱酸性である必要があるのか、なぜ軟水が水草に適しているのかを、明確に説明した情報は意外と多くありません。

本記事では、水草育成の経験と水質化学の基礎を踏まえながら、“水草が弱酸性の軟水を好む本質的な理由” を体系的に解説します。

pH・KH・GHといった水質指標が、水草の光合成や栄養吸収にどのように影響するのかを理解すれば、「なぜ育たないのか」「なぜコケが出るのか」といった悩みが数字として見えてきます。

・弱酸性(pH=6.5以下)にすることで光合成が活発になる
・軟水にすることで栄養吸収がスムーズになる

スポンサーリンク

弱酸性の軟水とは何か

一般的に言われる「弱酸性」「軟水」の基準

アクアリウムでよく使われる基準は次の通りです。

  • 弱酸性:pH6.0〜6.5 前後
  • 軟水:硬度0〜3°dH(GH)程度

この範囲が「水草が育ちやすい水質」とされますが、その理由を理解するには、水質を構成する要素を分解して考える必要があります。

関連記事

[mathjax]アクアリウムの世界では「水質」という言葉を頻繁に耳にします。「水草が好む水質に合わせる」「餌のやり過ぎで水質が悪化する」など、誰もが一度は聞いたことがあるはずです。しかし、そもそも“水質”とは何を指[…]

水質検査
スポンサーリンク

pHが水草の光合成に与える影響

pHは「水中の水素イオン濃度」を示す指標

pHは、水中の 水素イオン(H⁺)と水酸化物イオン(OH⁻)のバランス を示す値です。
酸性に傾くほどH⁺が多く、アルカリ性に傾くほどOH⁻が多くなります。

関連記事

[mathjax]水槽管理で必ず耳にする「pH」。酸性・中性・アルカリ性を示す数値であることは多くの人が知っていますが、「pH=何を表す数値なのか」「同じpHでも水によって性質が違うのはなぜか」まで理解している人は意外と[…]

スポンサーリンク

二酸化炭素はpHによって“形を変える”

水草は弱酸性を好むと言われますが、その理由の一つは、水中に溶けている二酸化炭素(CO₂)に与える影響にあります。

水中のCO₂は、pHによって3形態(炭酸、炭酸水素イオン、炭酸イオン)に変化します。

上のグラフには、赤、青、緑の線がありますが、これらは各pHにおける炭酸(赤)炭酸水素イオン(青)炭酸イオン(緑)の存在比を現しています。簡単に言うと、pHが低くなると炭酸が増え、pHが高くなると炭酸水素イオン炭酸イオンが増えるということです。ここでは、pH=6.5以下の弱酸性だと炭酸が最も多く存在し、pH=7以上になると炭酸がほぼなくなり、炭酸水素イオン炭酸イオンに変化すると覚えておいてください。

多くの水草は、炭酸イオンや炭酸水素イオンを光合成に利用できない

ここで問題になるのは、水草が光合成をするとき、二酸化炭素が上の炭酸炭酸水素イオン炭酸イオンのどの形でも利用できるのか、ということです。多くの水草では、炭酸水素イオン炭酸イオンの状態の二酸化炭素を光合成に利用することができない、もしくは、利用効率が悪いとされています。

つまり、水中にどれだけ二酸化炭素を添加しても、水のpHが高ければ、二酸化炭素は炭酸水素イオン炭酸イオンの形に変化してしまうため、水草はそれらを光合成に利用することができないということになります。これが、pHを6.5以下にしていた方が光合成が活性化する ⇒ 水草は弱酸性を好む と言われる理由です。

弱酸性だと、CO₂が“使える形”で多く存在するため光合成効率が上がる

KH(炭酸塩硬度)が高いと水草が育たない理由

KHは“硬度”ではなく“炭酸水素イオン量”を示す

アクアリウムで測定するKHは、炭酸水素イオン(HCO₃⁻)の量 を示す指標です。

KHが高い=HCO₃⁻が多い=水がアルカリ寄りになりやすい という関係があります。

KHが高いとpHが上がり、CO₂が利用できなくなる

KHが高い水はpHが上昇しやすく、結果としてCO₂がHCO₃⁻に変化してしまい、水草が光合成に使えるCO₂が不足します。

KHが高い=光合成効率が落ちる=水草が育たない
特に水道水のKHが高い地域では、CO₂添加の効果が出にくい傾向があります。
関連記事

アクアリウムの水質管理でよく話題に上がる「硬度」。pHほど馴染みがなく、GHとKHの違いも分かりづらいため、なんとなく後回しにしてしまう人も多い指標です。しかし、水草が育たない、エビが落ちる、pHが安定しない……。こうし[…]

GH(総硬度)が高いと栄養吸収が阻害される

GHはカルシウム・マグネシウム濃度の指標

GHとは『総硬度』のことで、水中のカルシウムとマグネシウムの濃度を示す指標です。こちらが一般的に理解されている硬度のイメージと近いと思います。GHが高い水はミネラルを多く含む硬水、逆にGHが低い水はミネラルが少ない軟水ということになります。

GHが高いと“拮抗作用”で栄養吸収が妨げられる

GHが高い場合、植物が栄養素を吸収する効率に影響を及ぼす可能性があります。人間でも、○○と△△を一緒に食べると吸収が良くなるとか逆に吸収が悪くなるといったことが起こりますが、同じことが植物にも言えます。カリウム、カルシウム、マグネシウムにおいて、どれかの濃度が極端に高くなると、その他のものの吸収が妨げられるという作用が起こります。これを『拮抗作用』と言います。

GHが高い(=カルシウムとマグネシウムの濃度が高い)場合、三大栄養素の一つであるカリウムの吸収が阻害されます。カリウムは植物にとって極めて重要な元素であるため、吸収が阻害されるとたちまち成長に影響が出ます。そのため、GHが高い水では、水草の成長が悪くなる可能性が高くなります。これが、多くの水草が軟水を好むとされる理由です。

GHが高い=カリウム不足=水草が弱る

GHが上昇する原因

GHが上昇する原因としては、主に下記の二つがあります。

  1. 水道水に含まれるカルシウムの濃縮
  2. 底砂や石からの溶出

まず、一般的な水道水にはわずかながらカルシウムが含まれています。台所のシンクや浴室で白い汚れ(水垢)が付くことがあると思いますが、あれは水道水に含まれる炭酸カルシウムが析出したものです。地域によりますが、日本は軟水の地域が多いので、水道水に含まれる濃度であれば水草の成長に悪影響を与えることはあまりありません。しかし、水替え頻度が少なく、足し水で管理しているような水槽だと、徐々に炭酸カルシウムが蓄積されていき、GHが上昇することがあります。

二つ目の原因として底砂やレイアウトに使用している石からカルシウムが溶け出すことがあります。通常、水草水槽では二酸化炭素を添加するため、水質が酸性に傾きやすくなりますが、水質が酸性になるほど、石や砂からカルシウムが溶け出しやすくなります。水槽立ち上げ直後は水草が順調に育っていたのに、時間とともに成長が悪くなった。二酸化炭素は十分添加しており肥料も与えていて、成長が悪くなる理由が分からない、という場合、気づかない間に徐々にGHが上昇している可能性があります。

水槽に下の写真のような汚れがつくという方は、GHが上昇している可能性がありますので、注意が必要です。

水垢

弱酸性の軟水を作る方法

① 水換えでKH・GHをリセットする

最も確実で安全な方法です。
特に足し水管理を続けている水槽は、炭酸塩が蓄積しやすいため注意が必要です。

② 水質調整剤でpH・KHを下げる

水道水のpH・KHが高い地域では有効です。
ただし、リン酸系の緩衝剤はコケの原因になる可能性があるため、成分表示を確認しましょう。

③ 浄水器(電解水)で酸性水を作る

電解水生成器を使えば、添加物なしで弱酸性の水を作れます。
カルキ抜きの手間も省けるため、管理が安定しやすい方法です。

まとめ

弱酸性の軟水とは、
  • pH6.5以下でCO₂が利用しやすい状態
  • GHが低く栄養吸収がスムーズな状態
この2つが揃った水質を指します。
つまり、
弱酸性でなければ光合成ができず、軟水でなければ栄養が吸収できない。
これが水草が弱酸性の軟水を好む本質的な理由です。水質の仕組みを理解すれば、水草育成は驚くほど安定します。ぜひ、あなたの水槽でも“数字で管理する水草育成”を取り入れてみてください。

スポンサーリンク