近年、夏の暑さが年々厳しくなってきており、鉢で育てている花を枯らしてしまったということが増えてきているのではないでしょうか?対策さえすればそれほど手のかからない冬越しよりも、環境によっては毎日朝夕2度の水遣りしないといけないこともある夏越しの方が難しいと感じている方も相当数いると思います。
そこで今回は、最近店頭でもよく見かけるようになってきた『底面給水鉢』について、水切れ対策や水遣り回数低減という面で効果があるのか、また、デメリットはないのか、といったことを実際に花を育てながら検証していきたいと思います。
- 1 一般に言われる底面給水鉢のメリットとデメリット
- 2 底面給水鉢 vs 通常の鉢 検証
- 2.1 検証方法
- 2.2 検証結果① 初期成長の比較
- 2.3 植え付けから1カ月間のまとめ
- 2.4 検証結果② 水遣り頻度の比較
- 2.4.1 ピンチカット
- 2.4.2 4/21 追肥(花工場500倍500mL)
- 2.4.3 4/28 追肥(微粉ハイポネックス500倍500mL)
- 2.4.4 5/2 再度ピンチカット
- 2.4.5 5/11 追肥(花工場500倍500mL)
- 2.4.6 5/18 追肥(花工場500倍500mL)
- 2.4.7 5/26 追肥(微粉ハイポネックス500倍500mL)
- 2.4.8 6/2 遂に水切れサイン! 左と右の鉢のみ水遣り
- 2.4.9 6/8 全ての鉢見水遣り
- 2.4.10 6/9 微粉ハイポネックス500倍500mL
- 2.4.11 6/16 リキダス500倍500mL
- 2.4.12 6/23 順調に成長
- 2.4.13 6/26 再び通常の鉢で水切れ
- 2.5 まとめ
一般に言われる底面給水鉢のメリットとデメリット
底面給水鉢について一般的に言われているメリットには主に以下のようなものがあります。
- 水遣り頻度を減らせる
- 水遣りのタイミングを気にしなくてよい
- 鉢底から流れ出さないため、水・肥料が節約できる
一方で、下記のようなデメリットも指摘されています。
- 常に水があるため、根が成長しない
- 根腐れのリスクが上がる
- 水を溜める部分に肥料が濃縮されて肥料焼けする
- 土に溜まる不純物を洗い流せない
このように、メリットデメリット両方が書かれているため、結局底面給水鉢を使ってよいのか判断するのが難しいです。当然、植物の種類によっても向き不向きはあると思うので、単純に結論を出すことは出来ないと思いますが、とりあえず、よくある一般的な草花で比較をしてみることにしました。
底面給水鉢 vs 通常の鉢 検証
検証方法
検証条件
検証の方法としては、同サイズの底面給水鉢と通常の鉢を用意し、同じ日に同じショップで購入した同じ種類の花苗を同じ土、肥料で植え、成長過程を比較します。鉢は三つ用意し、一つは通常の鉢で通常の(株元に)水遣り、一つは底面給水鉢で通常の(株元に)水遣り、一つは底面給水鉢で鉢底の給水部分に水を補充、とします。また、水遣りと追肥は下記のようにします。
1.植え付け後1カ月は、水遣りと追肥の量・タイミングを同じにし、成長の比較を行う。
2.植え付け後1カ月経過してからは、植物の様子を見ながら水切れの症状が出たタイミングで水遣りを行い、水遣り頻度の比較を行う。ただし、追肥の量とタイミングは同じとする。
植える植物
サントリーフラワーズさんの『サフィニア』大輪系
鉢のサイズ
直径27cmの9号ポット(鉢底に水を溜める部分がある分、底面給水鉢の方が土が入る量は少ない)
底面給水鉢はDCMの『エレガントプランター』を使用していますが、おそらく下記と同じ仕様だと思います。底面給水鉢は外径30cmありますが、縁が厚いため内径は27cmほどです。
検証結果① 初期成長の比較
ここからは写真とともに検証結果を見ていきます。
3/17 植え付け
- サフィニア赤:通常の鉢 上から(株元に)水遣り
- サフィニア黄:底面給水鉢 上から(株元に)水遣り
- サフィニア紫:底面給水鉢 鉢底給水口に給水
※植え付け当日は、植え付け時に葉に付いた土を洗い流すため、全ての鉢に上から水遣り
土は『花ちゃん培養土』に赤玉土を2~3割混ぜたもの、元肥適量と、殺虫剤として『オルトラン』を入れています。
3/20 追肥(微粉ハイポネックス500倍500mL)
左側二つの鉢には上から根元に、右の鉢には下写真の給水口より、微粉ハイポネックス1gを500mLの水に溶かして与えました。まだ鉢底近くまで根が伸びていないと思うので水を吸収できるか心配ですが、とりあえず問題が発生するまでは下からの給水で進めていきます。
3/24 追肥(微粉ハイポネックス500倍500mL)
3/27 水遣り500mL
3/30 追肥(花工場500倍500mL)
植え付けから2週間が経過、ここで予想通り水遣り方法による差が見えてきました。
下の写真を見てもらうと分かる通り、株のサイズには大きな差は出てきておりませんが、底面から給水している一番右の鉢は土が完全に乾いてしまっています。
拡大してみると、葉がしなしなになり、一部枯れてきています。明らかに水切れです。
予想していた通り、まだ根が鉢底近くまで育っておらず、底面付近の水を吸えていない様子。このままでは底面給水のメリット・デメリットを検証する前に枯れてしますので、今回に限り右側の鉢も根元から水を遣ることにしました。いきなり9号鉢くらいのサイズに植えているので、根がある程度伸びるまでの間は、根元から水遣りした方がよさそうです。今回は、液肥(花工場)を500倍で500mL与えました。
4/2 水遣り500mL
天気によって土の乾きが違うので、様子を見ながら必要に応じて水遣りをしています。植え付けからここまで、水と肥料の量は全ての鉢で同じにしています。右側の鉢は水切れから復活したため、底面からの給水に戻しています。
4/6 追肥(花工場500倍500mL)
植え付けから3週間が経過しました。一時期水切れしていた右側(底面給水)の鉢も完全に復活しています。三つの鉢で株のサイズにあまり差はありませんが、葉の大きさが右の鉢は大きく中央の鉢は小さいように見えます。ただ、これは鉢の違いではなく株の個体差かもしれません。
※同じ種類の花でも色によって成長に差がある場合もあります。
4/13 水遣り500mL
植え付けから4週間が経過。雨が多く、土がなかなか乾かなかったので、1週間ぶりの水遣りになりました。
株元に水遣りしている左と中央の鉢は花が咲きました。右側の鉢もつぼみはついているので、近々咲くと思います。右の鉢は外側の枝が伸びてきており、ピンチカットした方が良いのですが、比較実験中のため、もう少しこのまま継続します。
4/14 追肥(花工場500倍500mL)
4/18 植え付けから1カ月後の様子
こちらが植え付けからおよそ1カ月後(32日後)の状態です。
どの鉢も順調に成長しています。右側の底面給水口から水遣りした鉢だけ、異常に間延びしていますが、茎は太く、ひょろひょろ徒長した感じではありません。鉢や給水方法の違いが出たのか、苗の個体差やサフィニアの色による性質の違いなのか分かりませんが、成長の仕方には差が出ました。
- 左(サフィニア赤):通常の鉢 上から(株元に)水遣り ⇒適度に分枝し葉が大きい
- 中(サフィニア黄):底面給水鉢 上から(株元に)水遣り ⇒分枝が多くこんもりまとまった草姿
- 右(サフィニア紫):底面給水鉢 鉢底給水口に給水 ⇒あまり分枝せず少ない枝が長く伸長
右の鉢は本来ならもっと早くピンチする必要があるのですが、成長の比較をするため、今回はピンチせずに1カ月待ちました。もっと早くピンチしてやれば株の形はもう少しきれいに保てると思います。
植え付けから1カ月間のまとめ
この1カ月の成長を見る限り、通常の鉢と底面給水鉢、どちらでも問題なく成長しました。
注意点としては、底面の給水部から給水する場合、根が底部付近まで成長するまでに暑い日が続くと、水を吸えずに水切れする可能性があります。最初のうちは株元に水遣りしてやる方が良いと思います。
また、底面給水しているものについては、あまり分枝せず少ない枝が長く伸びる結果となりました。株の個体差の可能性もありますが、通常の水遣りと底面給水で根の成長の仕方に差が出て、それが株の成長にも影響しているのかもしれません。
検証結果② 水遣り頻度の比較
これまでは、水遣りや施肥のタイミングと量を統一し、成長の比較をしてきました。ここからは、底面給水鉢で最も期待される水遣り頻度について、比較をしたいと思います。
ピンチカット
1カ月間の成長比較が終わったので、ここでピンチカットをしました。
ピンチカットしてみて改めて感じたのは、右側の株は枝数が非常に少なく、節から出ている新芽はほとんど成長していないということです。葉の数がある程度残るように切り戻しましたが、まだ茎が長いので、この後再度切り戻す必要があるかもしれません。
またここからは、底面給水によって水遣り頻度を低減できるかを検証していくため、水遣りの際の水量は鉢によって変えていきます。左の通常の鉢は鉢底から水が出るまでたっぷりと、中央の鉢は底から流れ出す水で底面の受け皿に十分水が溜まるまで、株元に水を遣ります。右の鉢は、底面給水口から受け皿にたっぷり水が溜まるように給水します。
4/21 追肥(花工場500倍500mL)
どの鉢も水切れしていませんが、追肥による水分供給をしました。追肥の際の水の量は全ての鉢で同じ量にしています。
4/28 追肥(微粉ハイポネックス500倍500mL)
植え付け後6週間、ピンチから10日後です。
右の底面給水の鉢は、ピンチ前の勢いそのままにぐんぐん成長しています。ただ、葉が大きく根元に光が届かないためか、枝先ばかり成長して芽の数が増えていません。
前回の追肥から1週間経過していますが、ピンチして葉が減っている影響もあり、水切れの様子は見られません。
5/2 再度ピンチカット
右の鉢で周辺のみ勢いよく成長する状態が続いています。仕方ないので、再度ピンチを行います。
上の写真を見てもらうと分かる通り、右の鉢は枝分かれが非常に少ないです。芽が出ていないのではなく、芽は出ているけど先端以外の芽は成長していない状態です。これまでの成長はもったいないですが、まとまった草姿にしたいので、思い切って大部分をカットしました。他の鉢についても適度に先だけピンチしています。
水切れの様子はないので、給水はしません。
5/11 追肥(花工場500倍500mL)
5/18 追肥(花工場500倍500mL)
ピンチカットでスカスカになっていた右側の鉢が一気に盛り返してきました。
毎週施肥の際に500mLほど給水されてるのみで、それ以外に水遣りはしていませんが、今のところ水切れサインは出ていません。施肥の前に株元を見ると、通常の鉢は下の写真のように土が乾いているのですが、鉢が大きいためか、水切れは起こしていません。
ちなみに底面給水鉢はこちらの通り、土が湿っている状態をキープしています。
5/26 追肥(微粉ハイポネックス500倍500mL)
4/18にすべての鉢をピンチカットしてからおよそ5週間。左と中央の鉢で花が咲きました。一方で、鉢底からの給水となっている右側の鉢では、枝の成長は凄まじいのですが、花の付きは良くないです。節間の距離も長く、なかなかこんもりと草姿がまとまりません。
株は大きくなってきてはいますが、まだ追肥500mLの水分だけで1週間水切れせずに育っています。
6/2 遂に水切れサイン! 左と右の鉢のみ水遣り
4/18にそれぞれの鉢にたっぷり水遣りして以降、追肥時の500mLの水以外は全く与えず、同じ管理を続けてきましたが、6週間が経過して初めて水切れの症状が出てきました。
中央の鉢は良い調子を保っているのに対し、左の鉢は花が開かなくなってきており、右の鉢は葉に張りがなくなっています。
そこで、今週は施肥は行わず、左の鉢には底から水が流れるまで十分に株元に水遣りをし、右の鉢には底部も給水口に水が溢れるまで(およそ1.5L)水を入れました。中央の鉢は水切れサインが出ておらず、底部にまだ若干水が残っていたため、水遣りはしません。
6/8 全ての鉢見水遣り
全ての鉢で土が乾いていたので全ての鉢のたっぷり水遣りをしました。
徐々に通常の鉢と底面給水鉢の差が見えてきました。
通常の鉢は土が乾くのが早く、花の数が少なくなりました。底面給水鉢の二つは成長の仕方に差はあれど、花はしっかり付いているように見えます。
ここで再度ピンチカットを行いました。
6/9 微粉ハイポネックス500倍500mL
6/16 リキダス500倍500mL
6/23 順調に成長
6/26 再び通常の鉢で水切れ
ここで再び通常の鉢で水切れが発生しました。底面給水鉢では水切れしておらず、水遣り頻度を減らす効果は期待できそうです。
まとめ
この後もしばらく育て続けましたが、底面給水鉢の方が水遣り頻度が少なくて済むことが確認できました。水遣りの方法は株元でも給水口でもどちらでも大丈夫ですが、株元に水を遣った方が土が水を含む分、より頻度を減らすことができました。
また、懸念していたデメリットですが、今回の検証では根腐れや成長が遅くなるといったことはありませんでしたので、そこまで心配することはなさそうです。
底面給水鉢は、うまく使えば水遣りの手間を軽減できる便利なアイテムだと感じたので、今後も積極的に利用していきたいと思います。